オレはいつものように、水平に倒したワゴン車のシートで目を覚ました。ここはオレの家だ。今日は日当たりがいいな。うとうととまどろんでいると、助手席にカナハが入ってきた。だらりと下げたオレの左腕あたりに身体をねじこんでくる。好奇心旺盛な大きな瞳、いかにも敏捷そうな引き締まった身体。ノースリーブの滑らかな肩が腕に触れ、オレは反射的にそれを抱える。覚束ない思考のなかで、何のつもりだ、と思う。彼女とオレはそんなに仲が良くなかったはずだ。「ねえ、手のひら、見て。ここケガしちゃった」。本当だ、少し肌が剝けているな。ぽつぽつと話す。カナハは人気者だ。なにせ、女優なんだから。
オレは取材の現場にいた。がらんとしたイベント会場のホール。石造りの床と壁が黒く光っている。派手な衣装を着たダンサーが降りてきた。今日の取材対象だ。オレはカメラを構えた。取材が一段落し、エレベーター前で待機していると、カナハが降りてきた。通り過ぎようとする彼女を隣にいたマネジャーらしき人物が引き留め、オレたち記者に挨拶するように促す。目が合うと、彼女は微笑み、手を伸ばした。そして、オレの手に指先が触れた一瞬ののち、笑みを消して去っていった。
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