独身中年の嗜みといえば、一人映画でしょ。で、見て良かった…そう思えた作品が「PERFECT DAYS」(パーフェクト・デイズ)。主演の役所広司がカンヌで男優賞を受賞し、話題となった作品。あ、ゴメン、「カンヌ」っていうのはお菓子じゃなくて、カンヌ国際映画祭のことね。みんなが知っていると思ってしゃべるのは、オレの悪いクセだな(笑)。
オレは映画を見る前に、ある程度作品情報は知っておくタイプ。調べてみたところ、「東京・渋谷を舞台に、トイレの清掃員の男が送る日々の小さな揺らぎを描いたドラマ」ってことで。キャッチコピーは、「こんなふうに生きていけたなら」。監督は、ドイツ人のビム・ベンダース。ふーん、作品名とコピーから、一人の男が日々を穏やかに生きる物語なのかな。まあ、カンヌで賞を獲ったなら駄作ではないか…と、見てみたら、想像よりも面白かった。
役所広司が演じる主人公の「平山」はおそらく60代。見るからに築年数が経っているアパートで独り暮らし。職業・公衆トイレの清掃員ということで、悲壮感が漂っているのかと思うとそうでもなくて。平山はいつも、どこか透明な表情を浮かべているのが印象的。例えば、彼は清掃作業中に利用者が入ってくると、いったんその場を離れて空を見上げる。なぜか、すがすがしい微笑を浮かべて。うーん、変なヤツ…。あとでわかったけれど、木漏れ日のフェチらしい。
鑑賞する前は、トイレ清掃員を描く映画だけに、どぎつい汚物とかを出して、みじめさを強調するんでしょ? イヤだな~と勝手に思っていたら、そんなシーンはまったくナシ。平山は自作の道具を駆使しながら、丁寧に、手早く清掃作業を済ませていく。その過程もなんだか気持ちがよくて、自分でも掃除がしたくなるのが不思議だ。おしゃれなトイレもたくさん登場して、なるほど、これはカンヌで鑑賞した外国人にとってアメージングだよな、と思う。
平山の楽しみといえば、朝食代わりの缶コーヒー、仕事に向かうクルマの中で聞く古い音楽。神社で食べるサンドイッチ、神社の木漏れ日を安っぽいフィルムカメラで撮影すること。神社で見つけた木の若木を採取して自宅で育てること。仕事終わりの銭湯と浅草の安い居酒屋での一杯、寝る前に読む文庫本。週1回のスナック通い。そんな感じだ。基本的に一人、そして無口。
毎日、木漏れ日を撮影して写真に焼いている点にはドン引きしたが、常に一人でいる自分と重なる部分があって、大いに感情移入できた。そうそう、一人のささやかな喜び、いいよねー、と。同僚の若者・タカシ(演・柄本時生)からは「いつも同じ生活を送って何が楽しいんスか」みたいなことを言われたと思うが、平山はどこ吹く風。
そんな本作のテーマは、おそらく「諸行無常」。やがて、平山の生活にも微妙な変化が生まれてくるわけで。いつもガラガラの行きつけの飲み屋が混んでいた。いつもの公園からホームレス(演・田中泯)がいなくなった。家出した姪っ子(演・中野有紗)が訪ねてきた。ひそかに思いを寄せるスナックのママが男性とハグしているところを目撃(平山、逃げる)。同僚のタカシ(演・柄本時生)が仕事をぶっちぎる…。
なかでも印象に残るシーンといえば、平山が妹を抱きしめるシーン。妹よ、すまん。オヤジのことも、家のことも、すべて背負わせてしまって。けなげに頑張ったな…そんな気持ちがあふれた行動だったのではないか。おそらく、平山の実家は何か家業をしている資産家で、オヤジが自分の考えを押し付ける人物で、大変な家なのだろう。オレは自由を手にしたが、残してきた妹に大変な思いをさせてしまった…そんな罪悪感はあったはずだ。
違和感があったところといえば、古書店のおばちゃんが、いちいちヘンな声で著者の解説をしてくるところかな。平山にはずっと無視されていたけど。
それと、スナックのママがアカペラ歌う? しかも、とんでもなくうまい。この人、歌手デビューできるよ! …と思ったら石川さゆりだった。天木越えの人やん…そりゃそうだ。海外の人が見て、日本人のスナックママは全員アメージングだと誤解しないことを願う。
あとは、スナックのママの元旦那(演・三浦友和)が追ってくるか?「アイツのこと、よろしくお願いします」って言われても、ねぇ…。何か生きていた証というか、爪痕みたいなものを残したかったのか…。なんで急に影踏みするん…?
最大の謎は、ラストシーンだろう。いつもの朝。仕事へと向かうクルマのハンドルを繰りながら、突然、平山が泣き始める。次の瞬間には笑みを浮かべたかと思うとまた泣いて…。なんなんだ? 想像するほかないが、まさに「感極まった」という印象だ。平山の場合、自分の気持ちを他人に吐露することはない。ふだん表に出さない思いがあふれたのだろう。ホームレスの心細い姿、タカシになついていた少年の寂しさ、妹やオヤジに対する感情、スナックのママへの慕情、その元旦那への複雑な思い…それらがごっちゃになってあふれ出した…と。
さらに、エンドロール後に「木漏れ日」の解説文が日本語と英語で表示される。たしか、木漏れ日はその瞬間にしかないもの、同じものは2つとしてない…みたいな内容だったと思う。「こんどはこんど、いまはいま」。姪っ子に対して平山が戯れに発した言葉にも通じる、本作のテーマだろう。毎日が同じように見える平凡な暮らしでも、同じ瞬間は2度とない。だからこそ、日々を丁寧に、慈しんで生きようや…私はこの映画から、そんなメッセージを受け取ったように思う。
とにかく余韻の長い映画で、その点からしても良作なのは間違いない。だからこそ、誰かと存分に語り合いたい。でもトモダチ、イナイ…ということで、あふれる思いを投稿した次第。それでは、また。
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